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自分の葬式で、あいつらはどんな顔をするだろう。
本作は、その想像を実際に見せてくれる漫画です。
職場のイジメで追い詰められた新入社員が、ビルの屋上に立っています。彼女を止めたのは、こういう言葉でした。
君には死んだ“フリ”をしてもらう。そうしたらボクらが奴らに“お仕置き”をしてあげるよ
この記事では『葬偽人』を、第1章の決着までネタバレありで解説します。誰が主人公を追い詰めたのか、偽の葬式で何が暴かれるのか、そして加害者を一切傷つけない復讐がなぜ痛快なのかまで書きます。
作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイトル | 葬偽人(そうぎにん) |
| 作画・原作 | 朝野いずみ/八橋舞雪 |
| 話数 | 57話・26巻まで配信中(2026年9月時点・連載中) |
| ジャンル | 女性漫画・社会・ダーク・復讐 |
| 主人公 | 田乃中雀(たのなか すずめ)/新入社員 |
| めちゃコミック評価 | 4.0(全535件/ネタバレ182件) |
| キープ登録 | 6,487人 |
| Renta! | item 284124(単行本版あり) |
公式タグに「復讐」が入っています。当ブログで扱う作品の中でも、そこが明示されているものは多くありません。
あらすじ(ネタバレなし)
田乃中雀は、祖父母に育てられた新入社員です。のんびりした性格ですが、仕事の覚えはとてもいい。
教育係についたのは、美人で優しい先輩日野亜衣里。雀は彼女を、親友だと思うようになります。
ところがある日、雀は見てしまいます。亜衣里と課長の不倫を。
親友だと思っていたから、雀は言いました。やめたほうがいい、と。
その日から、壮絶なイジメが始まります。
登場人物
| 人物 | 立場 | 役どころ |
|---|---|---|
| 田乃中雀(たのなか すずめ) | 主人公 | 祖父母に育てられた新入社員。のんびりだが仕事はできる |
| 日野亜衣里(ひの あいり) | 教育係の先輩 | 美人で優しかった。イジメの首謀者 |
| 課長 | 上司 | 亜衣里の不倫相手 |
| ツカサ | 葬偽人 | 元詐欺師。のちに雀を指導する |
| エイコウ/エリー | 葬偽人 | 元葬儀屋・元マジシャン。弱者の味方 |
| 祖母 | 雀の家族 | 計画に同意する側に回る |
ここから先はネタバレです。結末に触れたくない方は「読者の評価」まで飛ばしてください。
【ネタバレ】雀を追い詰めたもの
イジメの構造は単純です。亜衣里が同僚を巻き込みました。
ここで効いているのは、雀の側の事情です。彼女は亜衣里を親友だと思っていました。不倫を止めようとしたのも、嫌いだったからではありません。心配したからです。
亜衣里なんか自滅させたらよかったけど、心優しい正義の雀は放っておけなかったんだね。親友も一方通行で悲しかった
善意が引き金になっている。これが本作の出発点です。黙って見ていれば、雀は何も失わずに済みました。
追い詰められた雀は、ビルの屋上に立ちます。そのとき彼女が考えていたのは、こういうことでした。自分が死んだら、彼女たちは反省してくれるだろうか。
【ネタバレ】亜衣里は何を守ろうとしたのか
亜衣里がイジメを始めた直接の理由は、不倫を見られたことです。口を塞ぐ必要があった。
ただ、それだけなら方法は他にもあります。雀を丸め込む。逆に脅す。距離を置く。同僚を巻き込んで壮絶なイジメに発展させたのは、明らかに過剰です。
手がかりは、葬式で暴かれたもう一つの秘密にあります。整形です。
亜衣里は「美人で優しい先輩」として職場に立っていました。その立ち位置は、作られたものだったということになります。不倫の発覚は、そこに繋がる糸の一本目です。
つまり彼女が守ろうとしたのは不倫の秘密そのものではなく、職場で保っていた自分の像のほうだったと読めます。だから葬式で整形と不倫が同時に出てくる構成に意味があります。二つとも、同じものを支えていた柱でした。
雀は、その柱に善意で触ってしまった。本人にその自覚がまったくなかったことが、この話をいっそう苦いものにしています。
【ネタバレ】「楽しく死にたい人募集」
死のうと決めた雀は、ネットを検索します。そこで見つけたのが、この一行でした。
楽しく死にたい人募集
怪しさしかありません。費用は50万円。それでも雀は電話をかけます。「死ぬならお金はもう要らない」という理屈で。
このとき彼女は公衆電話を使います。追い詰められていても、警戒だけはしている。この細部が雀という人物をよく表しています。
電話の先にいたのが葬偽人でした。
| メンバー | 前職 | 担当 |
|---|---|---|
| ツカサ | 元詐欺師 | 計画の設計 |
| エイコウ | 元葬儀屋 | 葬儀の再現 |
| エリー | 元マジシャン | 仕掛けの実行 |
やることは偽の葬式です。依頼人に死んだフリをしてもらい、その葬式に加害者を呼ぶ。犯罪ではありません。大がかりなドッキリの舞台です。
そして雀の祖母も、この計画に同意します。
【ネタバレ】葬式で暴かれたもの
雀の葬式に、亜衣里たちが呼ばれます。そこで暴かれたのが、この3つです。
| 暴かれたこと | 誰にとって痛いか |
|---|---|
| 亜衣里の整形 | 美人であることを武器にしてきた本人 |
| 課長との不倫 | 亜衣里と課長の双方 |
| 下剤を使ったイジメ | 同僚を巻き込んだ全員 |
雀がやられたことが、そのまま返されます。下剤の仕返しまで含めてです。
亜衣里の整形、課長との不倫、下剤の仕返し。全て暴露、すっきりした!
そして雀は、葬偽人から仲間になることを請われます。被害者だった人が、救う側に回る。ここで第1章が終わり、作品の形が変わります。
親友に裏切られる話を、もう1本読みたい人へ
『親友の不倫相手は、夫でした』|3人の親友のうち誰かが夫と通じている、というところから始まります。全73話で完結済みです。
第2章以降|依頼人が毎回変わる
雀が葬偽人になったあと、本作は1話完結に近いオムニバスになります。毎回、違う依頼人が来ます。
| 依頼人 | 追い詰めている相手 |
|---|---|
| 職場でイジメを受けた人 | 同僚(雀自身のケース) |
| ストーカー被害者 | 付きまとう相手 |
| ワンオペで家事育児を担う妻 | 協力しない夫 |
| 外面だけがいい父親に苦しむ家族 | 家の外では評価される父 |
読者の反応で目立つのが、この父親のエピソードです。
外面イクメンのクソ親父の話には、依頼者の気持ちがわかり過ぎて感情移入しすぎました
外で褒められている人ほど、家の中の被害は信じてもらえません。葬偽人の手口は、そこにいちばん効きます。葬式という場は、外の評価を持っている人が必ず来る場所だからです。
考察|加害者を一切傷つけない復讐
本作の復讐には、加害者を傷つける工程がありません。
| 一般的な復讐漫画 | 本作 | |
|---|---|---|
| 加害者が失うもの | 職・家庭・金・立場 | ほぼない |
| 手段 | 証拠・法・暴露 | 偽の葬式(ドッキリ) |
| 加害者に起きること | 転落 | 自分がしたことの重さを知る |
| 違法性 | グレーな手も出る | 犯罪ではない |
それでも読者が痛快だと感じるのは、この復讐が「死にたい」と考えた人の想像を、そのまま実現しているからです。
自分の葬式の時にあいつらがどんな顔するのか見てやりたい…というのは、自ら命を絶とうと考えたことがある人ならきっと頭に浮かぶ感情
この感情には、はっきりした特徴があります。相手を壊したいのではなく、分からせたい。金でも立場でもなく、認識を変えさせたい。
ところが現実には、それを確かめる方法がありません。本当に死んだら、相手の顔を見られないからです。
葬偽人は、その一点だけを解決しています。死なずに、葬式だけを実行する。だから本作の復讐は、加害者に対する攻撃ではなく依頼人に対する救済として機能します。ある読者が「精神的復讐」と呼んでいるのは、ここを指しています。
考察|なぜ「葬式」でなければならないのか
仕返しの方法なら、他にもあります。証拠を集めて訴える。SNSで晒す。上司に報告する。それでも本作が葬式を選んでいるのには、理由があります。
| 葬式という場の性質 | 加害者にとって何が起きるか |
|---|---|
| 断りにくい | 欠席すると、周囲から人格を疑われる |
| 全員が同じ場所に集まる | 逃げ場がない。個別に言い訳できない |
| 神妙な顔をしなければならない | 本心と態度のズレが、そのまま表に出る |
| 第三者の目がある | 外面を保っている人ほど痛い |
訴訟は時間がかかり、SNSは反撃されます。上司への報告は握り潰されます。ところが葬式だけは、加害者が自分の足で来てくれます。
しかも来ないという選択肢が事実上ありません。同僚の葬式を欠席すれば、それ自体が周囲に伝わるからです。加害者を確実に一箇所へ集める方法として、葬式は非常に合理的です。
外面だけがいい父親のエピソードが読者に刺さっているのも、同じ理屈です。家の外で評価されている人ほど、葬式には必ず来る。そして必ず、いい顔をしようとする。
考察|50万円という値段の意味
葬偽人の費用は50万円です。決して安くありません。
雀がそれでも電話をかけたのは、こういう理屈でした。死ぬならお金はもう要らない。
この価格設定はよくできています。普通の精神状態なら、まず払いません。払えるのは「もう自分には必要ない」と考えている人だけです。
つまり50万円という金額が、そのまま依頼人の絞り込みとして機能しています。本当に追い詰められた人だけが辿り着く仕組みです。
そしてもうひとつ。お金を払った瞬間、雀は「死ぬための準備」を始めたつもりでいます。ところが実際に始まったのは、生き延びるための準備でした。この入れ替えが本作の仕掛けです。
雀を助けたのは、祖母の同意だった
見落とされがちですが、この計画には祖母の同意が入っています。
孫の偽の葬式を出すことに、祖母が頷いている。普通に考えれば、受け入れがたい話です。
それでも同意したということは、祖母が孫の状態をそこまで深刻に理解していたということになります。偽の葬式を出すほうが、本物の葬式を出すよりましだと判断した。
雀は祖父母に育てられています。両親の話は前面に出てきません。この家族構成が、計画を成立させています。止める人がいれば、この話は始まりませんでした。
雀が公衆電話を使ったことも含めて、この作品は細部で人物を描くタイプです。追い詰められていても警戒はする。家族には黙って進めない。派手な設定の裏で、こういう部分が積まれています。
他の復讐漫画と比べてどう?
| 作品 | 加害者が失うもの | 反撃の主体 |
|---|---|---|
| 葬偽人 | 何も失わない(認識だけが変わる) | プロ集団+本人 |
| リベンジ〜サレ姉の復讐〜 | 家庭・立場・すべて | 本人 |
| 夫がゴミだと気づいたので〜 | 金(100倍返し) | 本人 |
| 親友の不倫相手は、夫でした | 関係・社会的信用 | 本人 |
並べると、本作の異質さがはっきりします。他の3作は被害者本人が戦い、加害者から何かを奪います。本作は他人が代行し、しかも何も奪いません。
これは弱点にもなります。「あいつが不幸になるところを見たい」という欲求には応えません。星3以下のレビューは、おおむねここに集まっています。
逆に言えば、他の作品では満たされない読者がここにいます。相手を壊したいのではなく、ただ分かってほしかった人たちです。
正反対の端にあるのが『復讐が足りない』です。同じ「会社が加害者を守る」ところから始まるのに、あちらは代行も制裁もなく、主人公自身が手を汚していきます。加害者は認識どころか命を落とし、そのぶん主人公が罪を背負う。読み比べると、本作が何を選ばなかったのかがよく分かります。
タイトルの「偽」は、一文字だけ違う
『葬偽人』は「そうぎにん」と読みます。
耳で聞けば「葬儀人」と区別がつきません。違うのは真ん中の一文字だけで、「儀」が「偽」に置き換わっています。
この作りは、彼らの仕事そのものです。見た目も音も本物の葬儀と同じ。中身だけが偽物。参列する加害者にも、その違いは分かりません。
そして「偽」は、加害者の側にも掛かっています。外面だけがいい父親。優しかった先輩。本作に出てくる加害者は、たいてい表向きの顔を持っています。
偽物の葬式で、偽物の顔を剥がす。タイトルの一文字に、作品の構造が入っています。
この作品は誰に向いているか
本作の読者層は、他の復讐漫画とすこし違います。
サレ妻ものの読者は、裏切られた側の悔しさに自分を重ねます。本作の読者が重ねているのは、それより手前の感情です。
「自分がいなくなったら、あの人たちはどう思うだろう」
この想像を一度でもしたことがある人にとって、本作は特別な位置にあります。レビューでそれを明言している人がいるのが、何よりの証拠です。
だから本作のいちばんの読みどころは、加害者が困る場面ではありません。依頼人が「もう死ななくていい」と気づく場面です。「ウルっとくる」というレビューが出るのは、そちらの側です。
復讐漫画として読むと制裁が軽く感じます。救済の話として読むと、筋が通ります。
スカッと度
| 観点 | 評価 |
|---|---|
| 暴露の気持ちよさ | ★★★★★ やられたことがそのまま返る |
| 制裁の重さ | ★★★☆☆ 加害者は職も金も失わない |
| 後味 | ★★★★☆ スカッとに加えて「ウルっとくる」場面がある |
| 読みやすさ | ★★★★☆ 第2章以降はほぼ1話完結 |
総合★4.0。ただし「加害者が社会的に破滅する」型を求めると、方向が違います。本作が返すのは立場ではなく認識です。
読者の評価
【高評価】不謹慎とか現実的じゃないとか、そういうことはひとまずおいといて、とにかくスッキリする復讐でした/ちょっとウルっとくるシーンもある面白い作品
気になるのは、葬偽人たちの動機がまだ描かれていない点です。ここを指摘する読者がいます。
その行為を指導しているのは元詐欺師のツカサさん。エイコウさんエリーさんも弱者の味方。この人たちって、本当のところどういう思いなのか気になります
元詐欺師が弱者を救っている。この矛盾が最後まで説明されるかどうかが、本作の残った謎です。連載中なので、現時点では分かりません。
『葬偽人』を読む方法
めちゃコミックとRenta!の両方で読めます。Renta!は無料の試し読みがあり、単行本版も出ています。
第1章の決着までは、無料範囲でおおむね読めます。合うかどうかの判断はそこで付きます。
よくある質問(FAQ)
完結していますか?
いいえ。連載中です。2026年9月時点で57話・26巻まで配信されています。
1話完結で読めますか?
第2章以降はほぼ1話完結です。ただし第1章(雀の話)だけは続きもので、ここを読まないと葬偽人という集団の成り立ちが分かりません。
重い話ですか?
導入は重いです。主人公が自殺しようとする場面から始まります。ただし作品全体は「ダマしの技」を見せる娯楽寄りの作りで、暗いまま終わりません。
こんな人にぴったり
- 「あいつに分からせたい」と思ったことがある人
- 信じていた相手に裏切られた経験がある人
- 外では評価されている人の被害に遭っている人
- 1話ずつ区切って読みたい人(第2章以降)
逆に、加害者がはっきり転落する展開を求める人には物足りません。その場合は『リベンジ〜サレ姉の復讐〜』のように、決着が明確につく作品のほうが合います。
まとめ
- 雀を追い詰めたのは、親友だと思っていた教育係・亜衣里
- きっかけは不倫を止めようとした善意。黙っていれば何も失わずに済んだ
- 葬偽人は元詐欺師・元葬儀屋・元マジシャン。犯罪ではなく大がかりなドッキリ
- 葬式で暴かれるのは整形・不倫・下剤の3つ
- 第2章以降は依頼人が毎回変わるオムニバス(ストーカー・ワンオペ妻・外面だけの父親)
- 本作が返すのは立場ではなく認識。加害者は何も失わない
職場で追い詰められる話としては、『各位、私のことはお構いなく』もあわせてどうぞ。あちらは復讐ではなく、空気を読まない先輩に救われる話です。


